雨上がりの午後、家までの長い登り道をコンビニ帰りの袋を右手に持ちながらとことこ歩いていた、ある日の話。
カーブに差し掛かったところで、目を見張るような鮮やかなな落ち葉の絨毯。
よくあるような濃い茶色や赤ではない、薄くも鮮やかな黄、ピンク、薄緑、赤、茶が偶然にバランスよく散らばっていた。
こんなスカートがあったらきっといいだろう、なんて普段あまり履かない私が思ってしまうような美しさ。ウインターカラーの私には残念ながら似合わないが。
とはいえ美しいので愛用のiPhoneで写真をと思ったが、ちょっとコンビニに行こうくらいの心持ちだったために生憎持っていたのは鍵と財布のみ。iPhoneは家で充電中。
こんな日は心のシャッターというものを私も押して私の中に残せばいいのかと、じっと見つめた。
なかなか難しい。
おそらく先程の流れからすると一般的には、心のシャッターを切って胸の中に残したからもう大丈夫、だなんて詩的な気持ちになるはずなのに、私はiPhoneを持って来なかったの残念だ、なんて趣のカケラもないことを思いながら数歩足を進める。
若干悔しい気持ちを抱きながらふと空を見上げると、淡い水色と紫、ピンクのグラデーション。
晴れた日に見えるこのグラデーションの空は何度見ても綺麗で、飽きない。外に出ている午後はそれを見たいがために昔からよく目線を上げる。
その日の空もこれまた綺麗で、丁度下から見上げていたため木々が額縁のように重なり合い絶妙なバランスで空を飾って見せていた。
可愛げなくまたそう思いながら、歩みを進めた。
漸く家まであと少しの場所、登り切った坂道の横に見える小高い丘にある家。
11月になり早まった夕暮れの中、鮮やかな燃えるようなオレンジ色に染められた普段は真っ白な外壁。
今ここにiPhoneがあれば。ああもう、心のシャッターだけじゃ無理だ。
そう思いながらも、じっと見つめずにはいられない。
あまりに美しい晩秋、初冬の自然風景。
残すとたまにしか見返さないのに、どうしても残したくなった、残せなかった景色。
始終iPhoneの必要性を思っていたのに、目を奪われたこの日の3つの景色は家に着いてから暫く経っても何故か色濃く美しくまだ頭に残る。
今更知る。
これが多分、心のシャッター。